大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和40年(ラ)614号 決定

抗告人 新見治三郎

主文

原決定および第一審決定を取り消す。

抗告人の本件強制執行停止申請を却下する。

訴訟費用は第一、二、三審を通じ抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨および理由は別紙〈省略〉のとおりである。

職権をもつて判断するに、記録によると、抗告人の「強制執行停止決定の申立」と題する書面による申立の趣意は、田中兼吉を原告、抗告人を被告とする江戸川簡易裁判所昭和三六年(ハ)第八六号建物収去土地明渡請求事件について同裁判所が言い渡した確定判決の執行力ある正本にもとづく本件建物収去の強制執行は違法ないし不当であるから、右強制執行を排除するため訴を提起するに伴い、右訴に対する本案判決がされるまでの間、右強制執行の一時停止を求めるものであることが認められるが、抗告人が右強制執行の排除を求める訴を提起したか、また、それがどのような訴であるかについては、前記申立書自体では明らかでない。しかし、当裁判所が、抗告人を上告人、田中兼吉を被上告人とする昭和四〇年(ツ)第七六号建物収去土地明渡請求再審上告事件の審理によつて職務上知りえたところによると、抗告人は、前記江戸川簡易裁判所の判決に対する控訴審判決に対し、再審の訴を提起したが(東京地方裁判所昭和三九年(カ)第一七号事件)、昭和四〇年二月一五日訴却下の判決の言渡を受けたので、右判決を不服として、当裁判所に対し上告を申し立てたことが明らかであるから、抗告人の本件強制停止申請は、結局、この再審の訴に伴い、前記強制執行の一時停止を求めようとするものと認めることができる。

ところで、再審の訴に伴う強制執行停止命令は、再審事件の受訴裁判所の専属管轄に属するものと解するのを相当とする。けだし、民事訴訟法第五〇〇条の規定を、同種の強制執行停止命令に関する同法第五一一条、第五一二条、第五四四条、第五四七条、第五四九条などの規定における管轄裁判所の定めと対比すると、同法第五〇〇条第一項にいう「裁判所」は再審事件の受訴裁判所を指称すると解するのが文理に適合するのみならず、ことを実質的に考えてみても、再審事件の受訴裁判所が右事件の審理に付随して強制執行停止の許否を判断することが至当であり、かつ、民事訴訟法第五六三条によると、右の管轄は専属的であるとしなければならないからである。本件のような代替執行は、債務名義の形成に与つた第一審の受訴裁判所が授権決定をすることによつて施行されるのであるが(民事訴訟法第七三三条)、これは、この種の執行が具体的な裁量を要するところから、債務名義を形成する手続を行なつた裁判所に慎重に判断させるのが適当であるとの法意によるものである。したがつて、再審事件の受訴裁判所が右第一審の受訴裁判所と異なる本件のような場合において、民事訴訟法第七三三条の規定を根拠にして、右第一審の受訴裁判所に再審の訴に伴う強制執行停止申請事件の管轄権があるとすることはできない。

してみると、抗告人の本件強制執行停止申請事件の管轄裁判所は受訴裁判所である当裁判所であつて、江戸川簡易裁判所ではないとすべきであるから、同簡易裁判所が本件強制執行停止申請を理由なしとして却下する旨の決定をしたことは専属管轄の定めに違背した違法をおかしたものであり、原裁判所がこの点を看過して、右決定に対する即時抗告を棄却する旨の決定をしたことも違法であつて、原決定および第一審決定は取消を免れない。

しかし、抗告人の本件強制執行停止申請の事由を仔細に検討すると、民事訴訟法第五〇〇条第一項所定の申請の要件をそなえておらず、その主張自体理由がないことが明白であるから、失当として、当審において直ちにこれを却下すべきである。

(なお、抗告人は本件建物収去の強制執行は田中兼吉の不法行為を構成するから、同人に対し損害賠償を請求するというが、このような請求を再抗告審において提出することは許されない。)

よつて、民事訴訟法第四一四条、第四〇八条、第九六条、第八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 川添利起 坂井芳雄 蕪山厳)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例